ポジティブにひそむワナ
「いつもポジティブ」
「明るく前向き」
「決してめげない」
これらの言葉から、どんな印象を受けるでしょうか。
一般的には「ポジティブで明るい」ことは良いことのように思いますよね。実際とても良いことですし、そういう人は魅力的な方が多いです。
世の中にも「ポジティブな自分であるための」啓発本があふれています。
しかしこのポジティブ・シンキングには大きな前提があります。
「他人に迷惑をかけないこと」
「他人を傷つけないこと」
です。
この前提を破ったら最後、素敵なはずのポジティブ・シンキングは恐ろしいポジティブ・モンスターに変貌します。
ポリアンナ症候群とその特徴
「ポリアンナ症候群」という言葉をご存知でしょうか。
アメリカの小説「少女ポリアンナ」(日本ではアニメ名作劇場「愛少女ポリアンナ物語」で有名になりました)に登場する主人公から名前を取っています。
物語に登場するポリアンナは辛い境遇にも負けず「良かったこと探し」をする名人です。これは良い意味での「ポジティブ」といえます。
しかし病症としての「ポリアンナ症候群」は
「悪い現実に目を向けず、都合の良いところだけを見て満足する」
「現実逃避をするため反省が無く同じ失敗を繰り返し、事態を悪化させる」
などの意味合いで用いられます。
要するに「自分に都合の良いことしか見ないでただ能天気に振舞い迷惑をかける人」ということです。
これは悪い意味での「ポジティブ」と言えるでしょう。
ポリアンナ症候群(以下「超ポジティブさん☆」と呼称します)にはいくつかの特徴があります。
貴方の周りに以下のような人はいませんか?
自称・ポジティブ
「もっとポジティブに気楽に考えようよ☆」
「ほら、私(オレ)楽天家でポジティブだから☆」
そんな言葉を口癖のように繰り返す「自称・ポジティブ」。
超ポジティブさん☆はやたらと自分がポジティブであると主張します。
まるで失敗やツラい現実から目を背けるかのように。
「大丈夫、なんとかなるよ☆」
このように楽観的な言葉を軽薄に用いるのも特徴です。
「前向き」と「無責任」が紙一重なのです。深く考えずただ無責任に「なんとかなる」と言っているケースも多々あります。
度を越した楽観主義は想像力を奪います。
想像力が無いから自分のことしか考えられない。
想像力が無いから他人の事情や痛みに寄り添うことが出来ない。
挙句人を傷つけても知らんぷりです。
無責任に適当なことをして人に迷惑をかけておいて「自分はポジティブだから大丈夫☆」で許されるはずがありません。
言動が軽々しい
「世界中のみんなを幸せにしたい!」
「世界中のみんなを笑顔にするのが自分の夢!」
超ポジティブさん☆は頻繁にこのようにやたらと規模の大きな言葉を口にします。
本人は心の底からそう信じ込み、本気で願っているつもりです。
「”自分が”人の役に立ちたい」「”自分が”人に影響を与えて”感謝されたい”」という願望が非常に強いのです。
人の役に立って感謝されればますます“自分が”ポジティブに、ハッピーになれるからです。
しかし現実的に考えて「世界中」に本気で一個人が影響を及ぼせるはずがありませんよね。それが出来るのは世界中でも限られた数人でしょう。
ポジティブさん☆が影響を及ぼせる「世界」なんて、せいぜい「自分と自分の周りにいる仲良しグループ」程度です。
実際、特に世界平和のために何か行動を起こすわけでもありません。世界情勢に詳しいわけでもありません。口先だけなのです。(稀に感情が持ち上がり過ぎて自分の能力に関係無く選挙に立候補してしまうような人もいますが・・)
上記の言葉から分かるように、基本的に全ての言動に上滑りした空々しい軽さが見られるのも特徴です。
深く考えていないからこそ、軽はずみに上っ面な発言だけを繰り返せるのでしょう。
自分に自信がある
超ポジティブさん☆は得てして自信過剰です。
自分に自信を持つことは大切ですが、時と場合と限度というものがあります。
自分に対して過剰に自信があるため、己の能力の範囲以上の仕事やキャパを越えた作業を簡単に請け負ってしまうこともあるのです。
本人は「自分は出来る」と思っているからです。
その自信満々な様子を見て、周りも信じて任せてしまいます。
結果失敗して周りに迷惑をかけます。
しかしポジティブさんの自信は揺るぎません。前向きでめげない性格が遺憾なく発揮されます。
悪い意味でくじけない
前段落の続きになりますが、超ポジティブさん☆は
自分に自信がある→安請け合いをする→失敗して他人に迷惑をかける→でもくじけない!→同じ失敗を繰り返す
パターンが非常に多いです。
メンタルの強さや打たれ強さは、本来は人として立派な気質であり素晴らしい才能です。
しかし大きな問題を起こしても闇雲にくじけないのはただのバ〇でしょう。
人間というのは失敗から反省し、そこから学び成長していくものです。
超ポジティブさん☆は、一番肝心な「反省すること」ができないのです。
何故なら自分に自信があってポジティブだから。
自分の失敗を振り返って分析し、次に繋げるようなことはしません。
周りがどれほどの損害を被ろうとも反省せず、都合の良いところだけを切り取って「あそこさえ何とかすれば大丈夫」「もっと頑張ろう!」などと考えます。
「反省」ができないので、場合によっては同じような失敗を何度も繰り返します。
同じパターンが繰り返されると、周囲も流石に理解していきます。
「コイツは前向きに能力を活かせる人間ではない、ただのバ〇だ」と。
現実感が希薄
ここまでの話で分かるように、超ポジティブさん☆からはどこか現実感が希薄な印象を受けますね。
現実から目を背けて夢物語のようなことばかり語っていたら、そうなるのも無理はないかもしれません。
超ポジティブさん☆は自分を「物語の主人公」だと思っているところがあります。
それ自体は全く悪いことではありません。むしろ素晴らしいことです。人間誰しも自分の物語の主人公ですから。
しかし忘れてならないのは、漫画やアニメの主人公ではないということです。
「現実の世界」では「現実の他人」ときちんと向き合って、目の前の「現実」を生きていかねばならない、ということ。
周囲にいる「他人」は「主人公の自分を彩る都合の良いモブキャラ」ではありません。それぞれがそれぞれの現実を生きています。
「現実の物語」で「現実の生きている他人」を傷つけたら「現実の人間」としての対応をしなければなりません。
漫画のキャラのようにカッコ良く前向きなセリフを吐いて終わり、にはならないのです。
1話完結のアニメのように、翌週になったら全て無かったことにはならないのです。
そのあたりの感覚が、超ポジティブさん☆はどうもピンとこないようです。
今どきアニメや漫画の登場人物のほうがよほど人間味のある深く現実的な人物描写がなされているかもしれませんね。皮肉な話です。
エセ・ポジティブの場合もある
「ポリアンナ症候群」には天性の人もいますが、
「後天的エセ・ポジティブさん☆」も確実に存在します。
本当はそこまで楽天的な性格じゃないのにポジティブであろうと躍起になり、自分に呪いをかけているタイプです。
ポジティブにならなきゃ!ポジティブな自分でいなきゃ!
と思い込むあまり視野が狭くなり、空回りを繰り返す。結局人に大迷惑をかけます。
前向きであるために自分に暗示をかけることは確かに大切ですが、やはり時と場合を考える必要があるでしょう。
「危険なポジティブ思考」の餌食にならないために
どこにでもいる「危険なポジティブ思考」を持つ人
繰り返しますが「ポジティブ思考」は本来は素晴らしい能力です。
周りに良い影響を与える”ポジティブ”は素敵なことですし、自分の中で完結できるならばどれだけ楽観的でも良いのです。
決してめげない根性も折れない心も、それを自分の中で昇華させ、結果成長に繋がったり、巡り巡って人の役に立つならばそれは素晴らしいことです。
ポイントは他人を巻き込み、他人に迷惑をかけるかどうか。
体験談~頑張ります!を繰り返すスーパーポジティブさん
筆者は以前、スーパーポジティブ思考の知人が引き起こした仕事上の失敗に巻き込まれ、結果的に自分の仕事を失い職場を追われたことがありました。
私が職場を追われるに至るには複合的な要因(同期からのパワハラ・モラハラ、社長から無視されるなど)が重なっており、また元凶であるその知人に悪気(私に害を加えようという意識)は全くありません。
周囲も「あの人に悪気は無いんだから悪くない」という認識のようで、逆に被害を受けたこちらのほうが「大したことないのにアイツ(私)が大袈裟に騒いでいる」と悪者扱いされんばかりでした。
それだけでも大きなダメージでしたが何より筆者が一番ショックだったのは、元凶であるその知人に「反省している様子」が全く見られなかったことです。
失敗は誰にでもあることですから、それ自体は別に良いのです。
せめて自分のしたことを理解し、反省さえしてくれれば大ごとにはならなかったはずなのですが。
その人から出てきた言葉は「頑張ります!」「もっと頑張ります!!」「もっともっと頑張ります!!!」の一辺倒。
お願いだからこれ以上頑張らないで、被害を広げないでというこちらの思いは、遠回しに伝えたところで伝わりません。
その人の言動から垣間見えたのは「決してめげず挫けずポジティブに、ひたすら自分自身を鼓舞する様子」だけ。
仕事で取り返しのつかない失敗をしたという「現実」や私という「他人を傷つけた」という「現実」はどこかに消え去り、
「めげない前向きで頑張り屋な自分」を周りにアピールすることに余念が無いようでした。
問題を起こした翌日にはSNSで何も無かったように明るくはしゃぐ、その能天気な自己中さに大きなショックを受けると同時に、「ポリアンナ症候群」という言葉の存在と、そういう性質の人間が社会に少なからずいることを初めて知ったのです。
問題を起こし人を不幸のどん底に落としても、ポジティブに自分を奮い立たせることが最優先。悪気も無ければ自覚も無い。理解力も無いから反省できない。
「話も通じないほどポジティブ」なその人に対して筆者が感じたのは第一に恐怖、第二にあきらめでした。
ただひたすら暴走するポジティブというのは恐ろしいものです。
きっとその人は私を会社から追いやったことなどはもうすっかり忘れ、今も以前と変わらず「ひたむきな頑張り屋さん」として周囲に元気いっぱいポジティブを振りまいていることでしょう。
最初は「とても良い人」
ポリアンナ症候群の人は第一印象がとても良い人が多いです。
(前段に書いた元知人も、いつもニコニコして一見とても感じの良い人でした。)
第一印象が良いこのタイプは人望もあり明るく前向きで活動的、コミュニティを引っ張ってくれるパワーもあるでしょう。
また自分に自信と余裕がある分、基本的には周りの人にも優しいです。
ですから歯車がうまく嚙み合いさえすれば、何の害もありません。「良い人」として印象が良いまま終わる場合もあります。
しかしひとたび取り返しのつかない行動を起こしたら最後、無責任に迷惑をまき散らし暴走し、挙句平然と自分だけが立ち直ってしまいます。そして懲りずに同じことを繰り返します。
ポリアンナ症候群の過剰なポジティブ思考が予想外の弧を描き、あなたに火の粉が降りかかってくる可能性は大いにあるのです(筆者の場合がそうでした)。
違和感に早めに気づくこと
分かりやすい攻撃意思を持って人を傷つける「意地悪タイプ」とは違い、超ポジティブさん☆の行動の予測をするのはハッキリ言って難しいです。
また多くの場合本当に悪気が無い「良い人」に見えるので、結果的に酷いことをされたとしてもその人の言動を咎めたり、責めることも難しいかもしれません。場合によっては私の例のように何もしていないこちら側が悪者扱いされます。ある意味「意地悪タイプ」より厄介です。
対策としては早めに本性に気づき、「可能な限り関わらない」これ以外にありません。仕事上だとなかなか難しいのですが、それでもできるだけ関わらないようにしましょう。
ポリアンナ症候群の人をよく観察してみると、
「発言が上滑りで軽々しい」
「自分の能力を超えた大言壮語を頻繁に語っている」
「どこか幼稚で無神経、無責任な様子が見られる」
「浅はかに周囲を勧誘し、自分の活動にやたらと他人を巻き込む」
など、違和感の種は必ずあるものです。
もし違和感に気づいたら、即距離を置いてください。
周りの環境がポリアンナ症候群を育てる
また周りの環境も影響を及ぼします。
ポジティブな考え方の人に対し「周囲がうかつに心酔し、追従してしまう」ことによりますます増長していくケースもあるでしょう。
一見明るい良い人に見える超ポジティブさん☆は、往々にして友達が多いのです。
「何があっても味方だよ!」「私たちズッ友だよ☆」と、何でも肯定してくれるポジティブ仲間も多いはず。
このように周りがイエスマンで固められていたり、同レベルの人間ばかりだったりすると、元々フットワークが異常に軽い超ポジティブさん☆の過剰なポジティブシンキングは加速します。
しかしその無責任な言動にストップをかけられる人さえ近くにいれば、迷惑の芽はそこまで大きく成長しないかもしれません。超ポジティブさん☆は根本的には「素直な良い人」だからです。
例えばあなたの近くに、夢のようなことばかりを根拠なく語り軽々しい行動を繰り返す人はいませんか?その人は実力以上に評価されていませんか?周囲にそれを無条件で肯定する盛り立て係はいませんか?
何かおかしいと思ったらあなた自身の周りの環境も見直してみるチャンスかもしれません。
「軽々しい夢物語を撒き散らし周囲に迷惑を振りまく無責任な人物」など、まっとうな大人のコミュニティには普通は存在しないのです。
↓ポジティブポンスターも含め、「縁を切ったほうがいいかも?」という迷惑な人6選はコチラから↓
まとめ~バランスの良い人間でいよう
「ポリアンナ症候群」は人間の「ポジティブ」な面が必要以上に表層化してしまったケースです。
人間誰しも「ポジティブな面」「ネガティブな面」はあるもの。どちらか一方だけが極端に突出するのはバランスの悪い状態と言えます。
常に後ろ向きで卑屈、周囲に陰々鬱々を撒き散らす「超ネガティブさん」も困りますが、お気楽能天気がすぎて周囲に迷惑を撒き散らす「超ポジティブさん」も困りますね。
ポジティブな感情を持つのは大切なことですし、他人に振り回されず意識を自分に向ける思考も大切です。
ですが、それと同時に自分の言動にきちんと責任を持てる大人でありたいもの。
要はバランスです。
自分自身が一方に偏らないように、また極度に偏った人間に振り回されないように、
人としての「総合バランス力」を身につけていきたいものですね。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
hirari@hirarisanpo
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