自他境界線とは
「自他境界線」という言葉をご存知でしょうか。
噛み砕いて言うと
「自分と他人の間にある境界線」
のことです。
自分と他人は別々の人間なのですから、一定の境界線があるのは当たり前ですね。
「人と自分は違う個体である」という区別は、一般には自我が芽生える乳幼児期には形成されると言われています。
ところが、この境目が曖昧なまま大人になってしまった人がいます。
彼らは一見常識のありそうな普通の人たちです。周囲と同じように成長し、大人になり、それなりに空気も読み、周囲と同じように社会生活を営むことが出来ている人がほとんどです。
しかし彼ら・彼女らの心のどこかにこういう意識があります。
「自分はこう考えている=当然他人も自分と同じ考えだろう、そうでなければおかしい」
「自分はこう行動する=当然他人も自分と同じ行動をしなければならない、そうでなければおかしい」
他人との境界線を当然のように飛び越えてくる「侵入するタイプ」です。ここでは便宜上「支配型」タイプと呼ぶことにします。
またこのように考える人もいます。
「〇〇さんがこういう考えだ=自分も〇〇さんに賛同しなきゃ、そうするのが当然だ」
「〇〇さんがこう行動している=自分も〇〇さんと同じ行動をしなきゃ、そうするのが当然だ」
他者の浸食を当然のように許してしまう「侵入されるタイプ」です。ここでは「従属型」タイプと呼ぶことにしましょう。
「支配型タイプ」と「従属型タイプ」。両者は真逆のようですがどちらも「自他境界線が無い」パターンの2つの類型なのです。
何故このような思考が形成されてしまったのでしょうか。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
他者に侵入する「支配型」タイプの特徴4選
ここでは「支配型」タイプの大きな特徴4選を挙げていきます。
押し付けがましい
押し付けがましいのが第一の特徴と言えるでしょう。
支配型の人は「他人にも意思があり意見がある」という当たり前のことがあまり分かっていません。他人に対する意識や気遣いが極めて希薄なのです。
だから「なんでもいいからとにかく自分の話を聞け」「自分の意見に従え」「自分の言葉を肯定しろ」と、全てに対し他人に強要をしがちです。
他人の感情などどうでもいい(気にしてない)ので、相手が嫌がっていたりウンザリしていても関係ありません。
彼ら彼女らにとっては、我を押し付けるのが当たり前。「境界線」など最初から無きに等しいのです。
否定から入る
「相手にも意思や感情がある」ことに思いが及ばない支配型タイプは、少しでも自分と異なる意見を耳にしようものなら慌てて全力で否定してきます。
筆者の元知人にも自他境界線ゼロの人がいましたが、その人は相手の話に対し「違う違う違う違う!」と早口で連呼し、まくしたてるように否定するのが口ぐせでした。
その人の中では「目の前のコイツごときが自己主張をすること、しかも自分と異なる意見を言った」それ自体が予想外だったのかもしれません。
自他境界線が無い支配型タイプは「自分が全て」なので相手を軽視する傾向が非常に強いです。
常に否定的で、相手の意見や意思を尊重できないのはその表れですね。
他人の噂話が大好き
「支配型」タイプは自分と他人の区別がつかないため、他人の情報を「当然のように」知ろうとします。故に噂話やゴシップが大好きです。
また自分と他人の区別がつかないため、人から聞いた話を「当然のように」周りに吹聴します。
「私の情報を教えてあげる、だから貴方の情報もよこしなさいよ」が基本スタンスなのです。
他人の噂をバラ巻くことに対しても、罪悪感はゼロです。なぜなら自分が気にしていないから。
自分が気にしないことは当然他人も気にしないだろうと思っているのです。
やたらとアドバイスをしたがる
「支配型」タイプは境界線が無いあまり、他人を思い通りにしようという意識が強いです。
それが顕著に出やすいのが「やたらと人にアドバイスをしたがる」ところ。
こちらは相談しているつもりもなく普通に世間話をしていただけなのに、いつの間にか勝手にアドバイスを押し付けられいつの間にかその人の独演場になってしまった。そんな経験はありませんか?
ここでも支配型の「押し付けがましさ」が前面に出てきます。
決して親身に相談に乗ってくれるわけではなく、上から目線でただ我を押し通すだけ。
アドバイスというより、もはや強要です。
このように独善的な意識が強いのも大きな特徴です。
周囲の対処法
「支配型」タイプは放っておくと他人の事情を考えずにズカズカと入り込んできます。
しかし、この人たちも一応相手は選びます。
「境界線に侵入しやすい人」「侵入しづらい人」を無意識に選び、「侵入しやすい相手」にターゲットを絞るのです。
相手が毅然と壁を作っていれば「コイツのテリトリーには入りづらい」と無意識に考え、それ以上は近づかないでしょう(稀に壁を壊してまで侵入してくる人もいますが・・)
このタイプへの対処法は「ピシャリと突っぱねる」「隙を作らない」、これしかありません。
他者から侵入される「従属型」タイプの特徴4選
自己肯定感が低い
従属型タイプの人は、自分に自信がありません。
「私なんて・・」「どうせオレなんか・・」という後ろ向きな考え方を常に持っています。
どこか自分を諦めているようなところがあるため、
「自分は出来ない」➔「だから積極的に行動しない」➔「全て人任せ」
と、他者依存の傾向が強くなる恐れがあります。
自分の意見を持たない
従属型の人は自己主張をほとんどしません。
「貴方はどう思うの?」と意見を聞かれて、沈黙してしまう人もいます。
「自分の意見を持つ」という意識が根本から抜け落ちているのです。
協調性があるわけではなくただ他人を受け入れ、肯定するだけ。
「なんでもいいよ」「貴方の言う通りでいいよ」が口癖です。
そのため「支配型」から目をつけられてしまうのです。
聞き役に徹することが多い
従属型の人は自分の意志を持たないため、自分から積極的に話題を振ることがありません。
会話では常に「聞き役」です。
中には聞き上手な人もいますし、聞き役になること自体は悪いことではないですよね。
ですが自分の意見を持たない従属型タイプは、相手の意見にただ同調し、相手の話を無条件で肯定してしまいます。
そのうち他人と自分の区別が曖昧になり、人の話を聞いている内に「自分もこの人と同じ考えだ」と思いこんでしまうのです。
他人に対し過剰に同情的になる
従属型タイプの人は、他人の話を聞いてすぐ涙ぐんだりすることがあります。
良く言えば「感受性豊かで優しい」のでしょうが、過剰に相手の事情に寄り添いすぎてしまう傾向があります。
相手に対し同情的になるあまり相手の感情を考えすぎ、先回りして相手の感情を深読みし、例えば人の仕事を勝手に手伝うなど先走った行動をしてしまうことさえあります(相手の人にとっては一長一短ですよね)。
これも他人と自分の区別がつかない(=距離感がわからない)ところからくる難点と言えるでしょう。
周囲の対処法
「従属型」は「支配型」のように積極的に人々に迷惑をかけることは少ないでしょう。
しかし自分の意見が無いことによる依存心の強さのため、知らぬ間に他人に依存しすぎてしまう傾向にあります。
また他人への過度な同情心から余計な先回りをしてしまい、周囲にとっては「要らんことをする迷惑な人」になるかもしれません。
もし迷惑(やらなくてよい作業を勝手にされた等)をかけられたら、そこはきっぱりと断りましょう。
そして「私は私のやりたいようにやるから貴方は貴方自身のことをやりたいようにやっていいんだよ」という旨のことを、それとなく伝えられたらいいですね。
両者が出会ってしまうと厄介
この「支配型」「従属型」タイプですが、どういうわけか両者は引き寄せあうことが多いようです。
「支配したい人」と「何でも受け入れてしまう人」が出会ってしまったら、共依存(お互いに依存しあうこと)の関係になるのは避けられませんね。
一見ただ仲の良い友人(or恋人、家族etc)同士に見えるため2人で固まっているだけなら問題視されないでしょう。
しかし「従属型タイプ」を味方につけた「支配型タイプ」は、ますます自分と他人との境目が分からなくなるためコミュニティ全員に押し付けがましい強要を始めるかもしれません。
「支配型タイプ」に支配された「従属型タイプ」はますます依存的になり、なんでも人任せ、失敗は人のせいといった他責的な側面が現れるかもしれません。
周囲の関係無い人にとっては迷惑な話ですね。
このように、「自他境界線の無い人」がいるだけで所属するコミュニティ全体のお荷物になる可能性もあるのです。
まとめ~自分は自分、人は人
<自他境界線の無い人~支配型タイプの特徴>
- 押し付けがましい
- 否定から入る
- 他人の噂話が大好き
- やたらとアドバイスをしたがる
<自他境界線の無い人~従属型タイプの特徴>
- 自己肯定感が低い
- 自分の意見を持たない
- 聞き役に徹することが多い
- 他人に対し過剰に同情的になる
以上「自他境界線の無い人の特徴全8選」です。
このような性質になるきっかけは幼少期の体験だったり、過去のトラウマだったり色々な原因があるでしょう。
しかし「自他境界」が曖昧な状態を放置しておくということは、「自分の世界」があやふやではっきりしないまま「他人の世界」に浸食するということですから、結果的に自分にも他人にも悪い影響を及ぼします。
健全な人間関係が築けずヒビが生じることが多くなるかもしれません。
筆者自身も「自他境界線の無い」知人に嫌な思いをされられたり迷惑をかけられた経験が少なからずあり、その侵入の度合いがどんどん増してきたため、最終的には縁を切る羽目になりました。
自他境界線の無さがきっかけで、人間関係が切れることは大いにあります。
それぞれ違う人間であることを意識する
自他境界線問題は友人、親子、恋人、夫婦など深い仲から会社の同僚や先輩後輩、客と店員さん程度でも、どんな関係でも発生します。
それを防ぐには、当たり前ですが「自分と他人は違う人間である」ことを常に念頭に置く必要があります。
何か問題に直面してイライラしたりうまくいかないことがあったら、一度深呼吸して考えてみましょう。
「あれ、私今無意識に相手を思い通りにしようとしてなかったかな」
「あれ、自分は今相手に過剰に寄り添いすぎて余計なことをしていないかな」
人は人、自分は自分。
それぞれに境界線があることを常に心の底で意識しておくようにしましょう。
自分軸で考える
「自他境界線の無い人」には、自分のことがあやふやなのに相手のことばかり意識する人が多く見られます。
そこから
「コイツの欠点ばかり目につく、けしからん、修正して教育してやる」
「この人といつも同じ考えでいたい、だから思考や行動を常に気にしなきゃ」
「この人の言動をサポートしてあげなきゃ、いつも手伝って見守ってあげなきゃ」
のように、少々歪んだ意識に突入してしまうのです。
他人のことばかりが気になってしまう人は、まずは自分を大切にし、自分軸で考えることから始めてみましょう。
支配型の人は、他人に影響を及ぼしてコントロールしようということにばかり心を砕く前に、自分はどうなのか?人に強要する前に自分はきちんとできているか?自分は自分をコントロールできているか?ということ、
従属型の人は、他人に過剰に気を使う前に自分は本当は何をしたいのか?自分の意見は何なのか?に心を向けてみてください。
自分軸で考えるとは、決して自分勝手になるという意味ではありません。
他人の前にまず自分自身を理解し、自分に意識を向けることです。
時間はかかりますが自分自身を理解すれば、次第に人との距離感も分かり、今までより良好な人間関係を構築することができるでしょう。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
hirari@hirarisanpo
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